祈月書院は、1934(昭和9)年、(故)安部十二造が、自らの苦学力行の体験を踏まえ、世に資する人物を育てるという理念の下、松江市の湖南に育英塾「寺子屋」を開いたのがはじまりです。1939(昭和14)年1月11日(認可)に財団法人組織となりました。祈月書院の命名は(故)安岡正篤先生によるもので、「七難八苦を我に与え給え」と祈った尼子氏の忠臣山中鹿之助の故事にちなんだものです。安部十二造の寄付を主要な原資として、多くの人が関わりながら一貫してボランティア型運営が貫かれています。
しかし、沿革にあるように、理念通りに師弟起居を共にする全寮制での人格教育が実施できたのは当初の数年間のみで、太平洋戦争の激化、敗戦、戦後の復興という大きな社会変動の中で児童福祉に注力せざるを得なかった期間もあり、大学・大学院生への奨学資金の給付という現行の形で育英事業に復帰したのは、1964(昭和39)年でした。爾来、主として島根県出身で関東地区の大学または大学院に在学する学生に奨学金を給与して参りました。
2013(平成25年)4月1日、島根県知事の認定を受けて、財団法人から公益財団法人に移行しました。認定事業項目は以下の通りです。
(1)奨学金の給与及び研修会の開催
(2)会誌(祈月書院報)、その他図書の刊行
(3)国際化時代に適した人間教育の在り方に関する研究会、シンポジウム等の開催
教育基本法(1947(昭和22)年制定、2006(平成18)年改定)の第一条(教育の目標)には、「教育は、人格の完成を目指して(中略)行われなければならない」とあります。換言すれば、教育は、教える人よりも大きな人が育って、はじめて完結する聖なる行為であります。祈月書院にとって「世に資する人物を育てる」という公益目的が達成されるのはそれが実現できた時と考えています。創立の精神に沿い、奨学生、かつて奨学生であった社会人OB・OG、役員に加えて、教育に関心のある一般社会人が一堂に会し、共に学び、論じ、考える姿勢を大切にしています。大きな国際化のうねりを背景に、新しい(地球)文明の構築に資する若者の育成を念願しています。何卒、趣意をご理解いただき、ご支援、ご鞭撻賜りますようお願い申し上げます。
理事長 熊野 嘉郎